一昨日(2019/5/8)の日経にキーエンスに関する記事が出ておりました。
私は元々キーエンスのビジネスモデルが好きで、家業に少しでもキーエンスの要素を取り入れたいと考えていました。 今回はキーエンスの何がすごいのか、日経の記事を踏まえながら紐解いていきたいと思います。
[目次]
会社概要
キーエンスは、1974年創業の検出・計測制御機器などの開発および製造販売を行う会社です。4月26日時点の時価総額が8.4兆円。トヨタ、ソフトバンク、NTTに次いで、国内第4位の時価総額を誇る会社です。
先も述べた通り平均年収では全国2位、「30代で家が建ち、40代で墓が建つ」と言われるほどです。実際に働いていた方のブログによると、新卒4年目で1,000万円を超えて20代のうちに家を購入する方も多いようです。給与が高い分、激務としても有名です。
いかにキーエンスが高収益体質を創り上げたのか、実態を見ていきます。
財務状況
まず、財務分析ツールのバフェット・コードを使って、キーエンスの財務状況を見ていきます。
キャッシュフロー計算書
キャッシュフロー(CF)の推移から見ていきましょう。
無借金ということもあり、財務CFはあまり発生しません。上記の図表を見ると、投資CFが営業CFに対して過大に見えます。が、投資CFの大部分を現預金や国債などの金融商品に回しており、設備投資の額は多くありません。
貸借対照表
次に貸借対照表を見ていきましょう。
2度の倒産から学んだ無借金経営
まず目を見張るのが、純資産の厚みです。 直近5年で自己資本比率は90%台で安定しています。利益剰余金が右肩上がりで積み上がり、有利子負債は一貫してゼロというお手本のような経営です。
無借金経営を徹底している理由がTwitter上で分析されていました。
ちなみにキーエンスは儲けたから社員に還元したのではなく、創業2年目から利益の一部を社員に還元するようにしている。
— 岡林 輝明|XTech & SUSHI+ (@Teru_Okabayashi) 2019年5月7日
滝崎さんはキーエンスより前に2回倒産させてるから、キーエンスにあらゆる教訓を反映してる。無借金や自己資本比率の高さも失敗からの教訓だと。
二度の倒産の経験から「いかに会社を存続させるか」を考え抜き、それを社員にも徹底させたのでしょう。
ただし、「嬉しい悲鳴」にも注視しなければなりません。無借金ということは、有利子負債より調達コストの高い株主資本を調達しているともいえます。だからこそ、ROICを初めとする指標を分析することが非常に重要です。ここをどう解釈するか、がポイントだと感じます。
持たざる経営
有形固定資産が非常に少ないのも特徴です。総資産に占める有形固定資産の割合は、1.5%程度しかありません。製造業としてはあり得ない数字です。
キーエンスでは自前の工場を持たず、全てアウトソースしています。いわゆる「ファブレス」経営です。また、商品構造をなるべくシンプルにすることで、外注しても高い品質を維持しています。
また、製造ノウハウを蓄積する場合や製造工程が難しい場合は、子会社のキーエンスエンジニアリングで製造を行います。
損益計算書
続いて損益計算書です。
粗利率が80%以上、営業利益率が50%以上という、メーカーとしては驚くべき高収益体質を実現しています。インターネット系の会社と見間違うほどです。
付加価値の最大化
後述しますが、キーエンスでは新入社員から役員に至るまで、企業全体で「付加価値の最大化」を目指す経営が徹底されています。付加価値の最大化は、同社の経営哲学である「最小の資本と人で最大の付加価値をあえる」の短縮形として使われています。
例を挙げると、商品企画の段階で「粗利80%」という目標が設定されているそうです。粗利率が80%に満たなければ、顧客にとって「価値のない商品」を意味し、市場に出すことは許されないという徹底ぶりです。
また、先述の通り、工場を持たないために減価償却費も小さく、固定費を抑えた経営を実現しています。
同業との比較
先程の日経の記事をつかって、同業他社と比較してみると、その強さが一目瞭然です。
原価を圧倒的に低く抑えていることが、 企業体質や賃金を高めていることが分かります。
データを重視する経営
コンサルティング営業
キーエンスでは、世界的に代理店・販社を介さず、 担当者が顧客に対して直接ヒアリング・提案を行います。「グローバルダイレクトセールス」と呼んでいます。
各担当者が高い専門性を有しており、顧客課題を深く掘下げ、解決策を提示するというコンサルティング営業ができていることでも有名です。そのコンサルティング営業の裏にはデータ分析があります。
データベースの活用
社内では、3つのデータベースを活用しています(文献が古いので、変化しているかもしれません)。
(1)顧客データベース
(2)事例集
(3)業種別の製造工程を解説した独自の教科書
営業部門に配属となった新入社員は、これら3つのデータベースを勉強し、そこで得た知識を営業活動に応用します。これにより、コンサルティング営業を実践できる人材を早期に育成する環境を整えているのです。
今後はWebマーケティングやIoT/ビッグデータの活用がますます発展し、データを活用したコンサルティング営業に磨きがかかっていくのだと思います。
マーケティング
マーケティングについても非常に評判が高いです。下記の2記事が詳しく、私も専門外なので今回は割愛します。
オウンドメディアではなく、「〇〇.com」という課題直結型の情報サイト(インデックス型コンテンツ)をつくり、資料請求に繋げています。
質の高いホワイトペーパーを量産することで見込顧客の獲得を実現しています。
企業文化
付加価値の最大化
キーエンスは、新入社員から役員に至るまで、企業全体で「付加価値の最大化」を目指す経営が徹底されているのが特徴です。
付加価値を高めるためには、2つのアプローチがあります。
(1)コストを下げる
(2)商品価値を上げる
日本の製造業は、(1)は得意だが(2)を苦手な企業が多い。キーエンスは独自性の高い、つまり世の中にない価値を提供することに徹底的にこだわる。
独自性を実現するために、以下の2つを徹底した商品企画を行う。
(1)革新性:競合企業では開発できない商品
(2)潜在ニーズの顕在化:顧客さえ気づいていないニーズを満たす商品
特に(2)において、キーエンスが突出していることはよく知られている。
時間チャージ
キーエンスの社内では、「時間チャージ」とよばれる各社員が1時間あたりに創出すべき付加価値額が決められています。時間チャージは以下の計算式で求めます。
時間チャージ = 当該年度の計画粗利額 ÷ 全社員の総終業時間
※その後、役職によって調整
この時間チャージの徹底は、時間への意識と付加価値への感度を上げることに繋がります。営業担当者は1分単位で外出記録をつける、会議や報告のための資料は作成にかかった時間を必ず記録する欄があるなど、時間と付加価値を常に意識させる仕組みがあります。
私が今回調べて最も参考になったのが、この時間チャージです。
カリスマ不在でも回る組織
創業者の滝崎氏は、自身のカリスマ性によって会社をマネジメントすることを嫌い、本人が不在でも回る企業を目指したそうです。滝崎氏が会長に就任した2000年以降も最高益を更新しています。
最も多く考えた人が正しい
滝崎氏の考えをよく表しているエピソードを最後にご紹介します。
創業以来、滝崎氏は「徹底的に考える」ことを社員に求めました。同時に「最も多く考えた人が判断する」という暗黙のルールを根付かせてきました。
キーエンスがブランド名になり、販売促進課の社歴の浅い女性社員が新しい梱包箱のデザインを担当していました。デザイン案について滝崎氏と何度も議論を重ねていましたが、なかなか決まりませんでした。
痺れを切らしたその社員が「この件について1日中、通勤の電車の中でも考え続けているのは私です」と言い切ると、滝崎氏は「そうだな」と言って、最終判断を彼女に任せたそうです。
創業社長であっても、最も考えた人に判断を譲る。社長がするのであれば、社員が追随しないわけにはいきません。そんな良い循環がきっとできているのでしょう。
参考文献
下記は実際に働いていた方が分析している書籍。内情も詳しく書かれています。キーエンスに関する文献は少ないので、ご興味がある方は是非読んでみてください。
私の評価
評価:C
A:殿堂入り
B:本棚に残す
C:買いだが、一度読んだら売る
D:図書館で流し読む
E:時間の無駄
まあ、Kindleのみなので、売ることはできませんが(笑)