あたりまえブログ

凡事徹底をテーマにしている中小企業の後継者が「大学時代の自分に伝えたいこと」を書いています。

1代で保有資産10兆円!世界第3位の大富豪が徹底する「ブランド・ポートフォリオ」とは?

先月、フランス・パリのノートルダム大聖堂で、大規模な火災が発生しました。文化財の多くは迅速な消火活動によって守られたものの、木造の尖塔と屋根が崩壊してしまいました。

 

同大聖堂の復元に名乗りを上げた民間人(民間企業)がいたのをご存知でしょうか?その人物こそがベルナール・アルノー氏(以下、アルノー)です。

www.huffingtonpost.jp

 

ルノーについては、日本ではあまり大きく話題になっておらず、馴染のない方も多いのではないでしょうか。文献を探っていくと、経営者としても投資家としても非常にユニークな人物だったので、彼の半生や哲学について纏めていきたいと思います。

 

[目次] 

 

ベルナール・アルノーとは?

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世界第3位の大富豪

2019年4月時点でのForbesによると、アルノーウォーレン・バフェット氏を抜き、世界で3番目の大富豪になりました。彼が会長を務めるLVMHの株価が好調な業績を受けて、上昇したことが要因です。保有する資産額は、なんと10兆円以上に上ります。

 

LVMHとは?

LVMHは「モエ・ヘネシールイ・ヴィトン」の頭文字をとった通称で、70社を越えるブランド企業の集合体です。

 

同社は次の6つの事業セクターを抱えています。

  • ワイン&スピリッツ
  • ファッション & レザーグッズ
  • パフューム & コスメティクス
  • ウォッチ & ジュエリー
  • セレクティブ・リテーリング
  • その他

 

各セクターが抱えるブランドについては割愛しますが、知らない人はいない名だたるブランドばかりです(各ブランドはこちらを参照ください)。

 

私もはじめて調べた時は、「えっ、DiorとLouis VuittonBVLGARIってグループ会社なの?しかも、モエシャンドンペリタグホイヤーまで同じかよ!」と驚きました。ここまでお読みになられた方も「同じグループでお酒からファッションまで全く異なる業種を抱えているのはどうしてだろう?」と疑問を持たれたかもしれません。

 

そこには、アルノーが若い頃の原体験から生み出された哲学があります。まず、彼の人生を振り返っていきます。

 

ベルナール・アルノーの半生

 建設会社の後継者

ルノーの父親であるジャン・アルノー氏は、フェレ・サヴィネルという大手建設会社を経営していました。アルノーは、フランスにおける理系の最高峰であるエコール・ポリテクニークで理工学士、経営学修士を取得した後、父親の会社であるフェレ・サヴィネル に入社します。父親が早く経営を任せたこともあり、28歳の若さで会社を継ぎ、同社の経営者となります。

 

人生が決まったタクシー運転手との世間話

ルノーの人生は、タクシーの運転手との世間話によって大きく動き出します。1970年代、彼が初めてニューヨークを訪れた時のことです。彼はインタビューでその時のことを次のように振り返っています。

初めてニューヨークを訪れたとき、乗り合わせたタクシーの運転手がいいました、「ああ、フランスね」と。私は彼にフランスの何を知っているか尋ねました。大統領の名前は?「知らないね。でもクリスチャン・ディオールなら知ってるよ」

驚いたことに、ディオールこそ世界で最も有名なフランス人なのです。私は事業の基盤の様な資産を所有したのだと確信しました。

ルノーがタクシー運転手と世間話をしたとき、クリスチャン・ディオールというデザイナーは亡くなって20年あまり経っていました。デザイナー本人がこの世を去っても、「クリスチャン・ディオール(以下、ディオール)」という名が不滅の名声を得ていることが彼にとって重要でした。

 

ルノーディオールについて次のようにも語っています。

私は当時からすでにディオールが大好きで、よく買っていました。個人的にも一流ブランドが好みだったのです。

(中略)

ディオールについては、当初から底知れぬ可能性があるとみていました。これほどの名声とイメージを備えたブランドを新たに創り出そうとしたら、途方もない時間と資金が必要でしょう。しかも成功の保証はないのです。それに比べ、ディオールはすでに由緒正しい伝統と確固たるイメージを備え、その魔力は景気にも左右されないのです。

 後述しますが、ディオールの価値に気付いたアルノーは、何が何でも手に入れようとあらゆる手段を講じていきます。

 

ブサックの買収

時代背景

1970年代当時、マルセル・ブサック・グループ(以下、ブサック)というフランス最大の繊維企業が、ディオールのほぼすべての株式を保有していました。ブサックは、ワンマン経営による失敗と世界的な繊維不況の中でかつての勢いを失っていました。傘下企業の切り売りとブサック氏の資材投入で持ちこたえていましたが、1987年に倒産します。

 

ディオールは、1960年代に後継者であったイヴ・サンローラン氏を解任してから停滞し、すでに死に体でした。当時のブサック氏は資産の売却に奔走しており、ディオールの香水部門を売却しました。ディオールに残されたのはメゾン(会社、店)とライセンスの権利のみになっていました。

 

ルノーが買収に至る経緯

当時、アルノーは「自由主義経済に逆行するフランスに未来はない」とミッテラン大統領による社会党政権の誕生に反発し、「大好きな国」アメリカに渡り、ニューヨークで3年ほど過ごします。この間、家業の系列である不動産事業を営んでいましたが、大きな成果を上げることもありませんでした。

 

事業の成功は得られませんでしたが、アメリカの「資本の論理を重視する経営手法」や「世界を意識したビジネス」という価値観は、アルノーの後の人生に大きな影響を与える貴重な経験を積んでいきます。とくに、LVMH設立後のM&Aや金融、流通の開拓などはアメリカ式の経営手法が大いに生かされている。

 

1984年、フランスに戻ったアルノーは経営危機に陥っていたブサックの買収に名乗りを上げます。狙いはもちろん傘下のディオールです。アルノーが買収したかったのはディオール1社でしたが、ブサック・グループ全体の買収を余儀なくされました。

 

ブサック・グループは、アルノーが買収できるほどの規模ではありませんでした。アルノーが経営する家業の企業価値の12倍に達していました。アルノー投資銀行と手を組み、家業をまるまる担保に入れ、4億フラン(70億円程度)の資金を用意します。自身のすべてをつぎ込み、35歳にしてディオールを手にします。そしてシャネルの復活を手本にしたブランド復活作戦に打って出ます。

 

LVMHの買収

LVMH誕生

1987年、ルイ・ヴィトンとモエ・ヘネシーが折半で出資して、持株会社LVMHをつくります。LVMHを筆頭にルイ・ヴィトンモエ・エ・シャンドンヘネシーロエベといった「高級品」という一点でつながるグループ体制が誕生したわけです。

 

お互いの商品構成と財務体質を補完し合える合併となりましたが、ルイ・ヴィトン出身のアンリ・ラカミエ氏(LVMH社長)とモエ・ヘネシー出身のアラン・シュバリエ(LVMH経営会議議長)との経営方針が次第に対立してしまいます。

 

ルノーがLVMH買収するまで

1984年にディオールを手にしたアルノーは、1987年にセリーヌを傘下に収めます。同年に唯一自前で育てたブランド、クリスチャン・ラクロワを設立し、3つのブランドを抱えるグループに成長させます。アルノーはこの頃から「デラックス(ラグジュアリー、高級品産業を指す言葉)」という言葉を使い始めます。

 

LVMHでは、シュバリエが大株主の支持を取り付けたことで、ラカミエが苦境に立たされます。そのとき、ラカミエが目を付けたのが当時39歳だったアルノーでした。ラカミエは、アルノーに提携を持ちかけ、シュバリエへの対抗を画策します。

 

一方、アルノーは、提携ではなく「買収」の準備を虎視眈々と進めます。買収資金をねん出するために、ディオール欲しさに買ったブサックグループを全て売却します。そして1988年6月には、LVMH株の30%を保有する合意を得ます。そして9月には株式の40%を手にし、アルノーの父ジャンを監査役会議長に就任させます。アルノーが、ラカミエとシュバリエの不仲のタイミングを逃さずに、最高のタイミングで攻め入った形になります。翌年には、ラカミエ・シュバリエ両名が辞任し、アルノーがトップの座に君臨します。

 

こうして世界最大の高級ブランド・コングロマリットが誕生します。

 

ベルナール・アルノーの哲学

ルノーの哲学を確固たるものにした「クリスチャン・ラクロワ

先ほど紹介した通り、新たな事業を興すよりも既存のブランドを買収するほうが有利だ、というのがアルノーの哲学です。このスタイルを追求したからこそ今のLVMHが存在します。しかし、アルノーが唯一例外扱いしているのがクリスチャン・ラクロワ(以下、ラクロワ)です。

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まだLVMHを手中に収める前に、アルノーラクロワ氏は出会いました。初めて見たラクロワのスケッチに一目惚れしたアルノーは、自分が出資するからオートクチュール・メゾンを開くよう直接依頼します。短期間でディオールと同等の規模を目指したため、投資額もかさみ、当初は赤字も出している。ラクロワ以外では、アルノーのこうした態度は見られない。それほどラクロワに惚れ込んだのです。

 

後にアルノーは「お気に入りのデザイナーは?」と問われ、次の通り答えます。

クリスチャン・ラクロワ。スケッチを見た瞬間に天才だと思った。とても魅力的な男だ。

しかし、ラクロワは現在に至るまでビジネスとしてうまくいっていません。『ハーバード・ビジネス・レビュー』の編集長インタビューで、アルノーは次のように述べています。

成功するまでに長い時間がかかるため、いったい失敗したのか、それとも学習体験だったのか、一概には決めつけられないビジネスもある。クリスチャン・ラクロワがそうです。 

更に、利益を上げられないラクロワの店舗を閉鎖しないことについて質問されたアルノーは、次のように述べています。

ラクロワから多くを学んだからです、一つのブランドをゼロから始めるにはどうしたらよいかを学ぶ、実験室を持っているようなものでした。最初は『クリスチャン・ラクロワという天才を抱えているのだから問題ない』と思っていたが、天才だけでは成功しないと学びました。偉大な才能をもってしてもブランドはゼロから立ち上げられないと知り、正直なところショックを受けました。しかし、ブランドには伝統が必要で、近道などなかったのです。

ラクロワからの強烈な学びこそがアルノーの二つ目の原体験です。ディオールラクロワ、この二つのブランドからの学びが、彼の「世界一の伝統あるブランドのコングロマリット」という目標を確固たるものにしたのです。

 

ブランド・ポートフォリオという独自の経営戦略 

二つの原体験、そしてディオールとLVMHによって形となったのが、「ブランド・ポートフォリオ戦略」です。

 

事業セクターの分散

資産運用の世界では、「卵を一つのかごに盛るな」という格言があります。

卵を一つのカゴに盛ると、そのカゴを落とした場合には、全部の卵が割れてしまうかもしれないが、複数のカゴに分けて卵を盛っておけば、そのうちの一つのカゴを落としカゴの卵が割れて駄目になったとしても、他のカゴの卵は影響を受けずにすむということ。 

特定の商品だけに投資をするのではなく、複数の商品に投資を行い、リスクを分散させた方がよいという教え(=銘柄分散投資)。

卵は一つのカゴに盛るな|証券用語解説集|野村證券

LVMHの場合、金融商品の分散ではなく、事業セクターの分散によって、安定成長を実現しています。先程も申し上げた通り、LVMHは6つの事業セクターと70のメゾンを抱えています。

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LVMHの各ブランドは、LVMHからの資金融資といった形で緩やかな財布の共有を行っています。ワイン・スピリッツ事業で安定的な収益を稼ぎながら、新商品をヒットさせるリスクを負う他の事業を補完しています。だからこそ、デザイナーは他のブランドよりも自身の才能を伸び伸びと発揮できるのです。

 

ルノーは自身のブランド・ポートフォリオ戦略について次のように語っています。

高級ブランド品産業で企業グループが成り立つには、中核となる「本物のスターブランド」が必要です。このようなブランドは永続性、強力なキャッシュフロー、長期にわたる安定成長、という三つの条件を満たしていなければなりません。世界でもこの条件を満たしているブランドは、5本の指で数えられるほどです。カルティエルイ・ヴィトンドン・ペリニヨンくらいでしょうか。これらのブランドを中核とすれば、本物のグループを結成できます。

グループの中軸となるブランドが安定しており、莫大なキャッシュ・フローを繰り返し産むおかげで、発展途上のブランドに投資できるのです。この利益共有の考え方が、我々の成功の秘訣です。

 

スケールメリット

ブランド企業を束ねたことにより、企業としてのスケールメリットも得られます。

 

たとえば流通の面では、店舗展開を共同作業で行うことで効率化しています。例えば、百貨店の一等地をグループで囲っておき、それをブランド相互で相談しながら融通できるのは大きなメリットです。

 

広告においても、各地域のLVMH支社が現地のメディアと交渉し、出稿する媒体を押さえておきます。その後、押さえておいたメディアの広告枠を分配します。LVMHが一括で広告枠を買うことで、大口顧客扱いとなり、各ブランドが単独で出稿する場合に比べ、大幅なディスカウントが可能となります。

 

人材の育成においても、規模によるキャリア・オポチュニティの増加がスタッフの士気につながっています。

 

中小企業の集合体

そうした中で、多様化してきた各ブランドの管理体制は、どのように行っているのでしょうか。LVMHは、各ブランドを厳しく管理するのではなく、サポート役に徹しています。各ブランドの持ち味を殺さないよう、高い自由度を維持しながらインテグレーションを行います。

 

ルノーはマネジメントについて自身のほどを次のように語っています。

私は、中央集権的なシステムと個々の独立性を合わせた企業構造を維持しさえすれば、ブランドの数をどれだけ増やしても問題ないと考えています。

LVMHは独立を維持したファミリー企業の集合体であり、それが成功の理由です。あちこちで企業グループができていますが、組織面でも創造の面でも中央集権的な経営方法をとり、多くの困難を招いています。しかし比較的小規模な企業の集合体であれば、製品や社員や職人と、直接的で個人的で永続する関係を築きます。これは完全に分権化した組織でなければできないことです。このシステムの場合、どんなブランドが加わっても格別な困難は生じません。

 

ルノーの「座右の銘

ミシュランタイヤを世界一に押し上げたフランソワ・ミシュラン「本当のボスは顧客だ」と言ったが、アルノーはそれを座右の銘にしています。LVMHのスタッフは絶えざる挑戦を続け、高いモチベーションを保っています。各ブランドは著しいスピードで、顧客のニーズを満たすための努力を続けます。顧客も気づかないほどの些細な変化も見逃しません。

 

日本では「お客様は神様だ」という価値観があります。神様だと、顧客のわがままも対応しなくてはいけません。奴隷のように顧客に対応することが求められます。見ているようで神様とボスは、考え方が異なります。上司に対しては「ニーズや課題に対してスピード感を持って答える」ことが求められます。欧米であればなおさらでしょう。

 

近年のアルノーの動向

LVMHでのブランド・ポートフォリオ戦略を続ける一方、1995年からアルノー個人やアルノー家の資産管理会社「グループ・アルノー」、そしてそのグループ・アルノーとLVMHが連携して設立した投資会社「Lキャタルトン」を通じて積極的なスタートアップへの投資を続けています。

 

人工知能(AI)やブロックチェーン技術といった最先端テクノロジーの活用を試みる大手ブランドもあるが、LVMHのアプローチはより保守的なものだ。

 

「ラグジュアリー業界はアーリーアダプターである必要はない。最後尾につけたいとも思わないが、先駆者を目指す必然性はない。メインストリームが生まれる少し前に、その領域に飛び込むのが適切なタイミングだ」とRogersは話す。

 

Rogersらは新たなテクノロジーに投資する際、そこに明確なビジョンがあるか、ブランドの認知をもたらすものかを考える。一例としてあげられるのは、インスタグラムやフェイスブックへの取り組みだ。

 

LVMHは先日、ラグジュアリーEコマースの検索サイト「Lyst」の6000万ドル(約65億円)の資金調達を主導した。Rogersはいう。「検索はこれからの時代のキラーアプリになる」

 

Lystにはベルナール・アルノーの家族が経営する「Groupe Arnault」が、以前に4000万ドルを出資していた。現在69歳のアルノーとRogersは、新たなスタートアップとの取り組みについて、いつも話し合っているという。

 

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また、2017年にLキャタルトンは日本への投資を本格化すると宣言。Lキャタルトン・アジアを通じて『破天荒フェニックス』で話題のオンデーズGINZA SIXにも出資しています。

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破天荒フェニックス オンデーズ再生物語 (NewsPicks Book)

破天荒フェニックス オンデーズ再生物語 (NewsPicks Book)

   

ルノーを知るための2冊

最後にアルノーを知るための書籍を2冊ご紹介します。どちらも15年以上前の本なので、中古のみの販売となります。

ブランド帝国の素顔

2002年発売の一冊。歴史的背景を深く掘り下げてくれる一冊。物語としての面白みには欠けますが、詳しく知りたい方にはお勧めです。

 

評価:D

A:殿堂入り

B:本棚に残す

C:買いだが、一度読んだら売る

D:図書館で流し読む

E:時間の無駄 

 

ベルナール・アルノー語る 

ブランド帝国LVMHを創った男 ベルナール・アルノー、語る

ブランド帝国LVMHを創った男 ベルナール・アルノー、語る

こちらは2003年発売。ベルナール・アルノーへのインタビューを6編で構成されており、彼の経営手法や哲学、そして家族観などに深く入り込んでいます。

 

評価:B

A:殿堂入り

B:本棚に残す

C:買いだが、一度読んだら売る

D:図書館で流し読む

E:時間の無駄