あたりまえブログ

凡事徹底をテーマにしている中小企業の後継者が「大学時代の自分に伝えたいこと」を書いています。

講演「優れた経営者の条件」(楠木 建)を聞いて

以前、一橋大の教授である楠木建さんの講演を聞きました。楠木氏は『ストーリーとしての競争戦略』などの著作でも有名な方です。

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彼の講演を初めて聞いたのですが、とにかくプレゼンが上手い。私が人生で聞いたプレゼンの中ではダントツのNo. 1でした。シンプルで論理的、そして力強い。しっかり笑いも入れて、聴講者を引き込んでいたのが印象的でした。

 

今回の講演のテーマは「優れた経営者の条件」。非常に興味深い内容でした。

[目次]

 

経営者の役割とは 

講演は、「経営者」と「担当者」を分ける所から始まります。楠木氏は経営者を「商売全体を丸ごと動かし、成果を出す人」と定義します。他方、担当者を「機能分業の要素単位に対応する人」と定義します。まあ当たり前と言えば、当たり前ですね。

 

また、商売の成果とは何か?楠木氏は以下の通り分解します。

商売の成果 = 経営者のセンス × 担当者のスキル

経営者に必要なのはセンス、担当者に必要なのはスキルだと。巷で売られているファイナンス、会計、HR、ロジカルシンキングなどのビジネス本の多くは、全てスキルについて書かれていて、経営者には必要ないと断言していました。

私は投資銀行を「このままやってても経営者にはなれない」と思って辞めたのですが、正に当時の直感を言語化して頂いた感じがしています。スキルが磨かれていく一方で、センス(のようなもの)が遠のいていく感覚がしていたのです。

 

優れた経営者の7条件 

こうした前提をお話しされた上で、本論である優れた経営者の条件(≒センス)について話が進んでいきます。楠木氏は、優れた経営者の条件を7つに分けて説明します。

 

分析より綜合

経営者は、担当者のように局所的ではなく、全体を見るゼネラリストであるべきだと楠木氏は主張します。全体を見るとは、「売上 - 費用 = 利益」をベースに物事を捉えるということです。

彼の顧問先で最も有名な会社は、UNIQLOでお馴染みのファーストリテイリングでしょう。ファストリの柳井社長も社員全員が経営者視点で行動すべきだと様々な場で公言されています。柳井さんが言わんとしているのは、この「売上 - 費用 = 利益」という感覚を持って、仕事を見ろということなのでしょう。

 

「何をしないか」を決断できる

楠木氏は、戦略的意思決定とは「何をしないか」であると語ります。戦略の本質が出るのは、そこにあるものではなく、「ないもの」である。資源制約があるからこそ、しないことを決めることこそが戦略だと述べています。

 

思考が直列

そして講演は、経営戦略におけるストーリーの重要性に移ります。楠木氏は、個別のアクションや意思決定は、ストーリーの文脈の中に置くことが重要だと語ります。つまり、数学で言うところの順列。組み合わせと異なり時間軸があると説明しています。

 

抽象と具体の反復運動

楠木氏によると、柳井さんは、この力が抜群に優れているとのこと。

反復運動とは、個別具体的な事象を抽象化することで、本質を見抜き、具体的な策を見出すことを指します。「これって、要するに〇〇が問題の本質だから、△△という対応すれば良いよね」と具体化→抽象化→具体化のプロセスのことです。

反復運動のスピードを上げて、頻度を高めることで、抽象化をする時に既視感が出てくるのだそうです。これがセンスが高まるということでしょう。

 

インサイドアウト

楠木氏は、商売の大前提が自由意志であるということだと語ります。彼の言葉を借りれば、「誰も頼んでないから嫌ならやめろ」と。だからこそ、「こうしよう」という内発的な動機が重要だとも述べています。

確かに名経営者として知られてる方々は、自分たちが一番仕事を楽しんでいる感じがしますね。

 

話が面白い

私たちが他者の話を聞いて面白いと感じる時は、その人が「面白がって話している」ことが重要だったりします。

この話の中で面白かったのは、柳井さんのエピソード。楠木氏は、柳井さんと数十年付き合っていく中で、彼の語り口のある変化に気がつきます。

それはファストリが上場したばかりの頃まで遡ります。柳井さんは楠木氏に対して、「ひょっとしたら、0.001%くらいかもしれないが、世界一になれるかもしれない」と語っていたそうです。そこから10年近くが過ぎ、フリースが爆発的にヒットした時には、柳井さんの語る確率が0.1%程度に上がっていたと。それからまた10年近くの月日が経ち、ヒートテックが爆発的にヒットしていた頃にはその確率が50%程度になっていたと。柳井さんは、ブレずに世界一を目指し続けて、その確率がドンドン上げてきたということです。この話は、柳井さんのキャラクターがわかる非常に興味深いエピソードですし、数十年に渡る関係性がもたらす貴重なものだと思います。

 

良し悪しよりも好き嫌い

楠木氏は、自身の経営戦略の研究を進めていく中で、「好き嫌い」が経営者にとって非常に重要なファクターなのではないかという仮説を立てます。その仮説が『「好き嫌い」と経営』などの著作につながっていくのですが、要するに内発的な動機が重要ということです。努力を娯楽化し、センスを磨き、成果をあげるという好循環を生み出すと仰っていました。好きこそ物の上手なれですね。

  

以上が講演で語られていた内容の要旨です。面白い内容だったので、友人にこの話をしたところ、「全然実務的じゃない、精神論じゃん」と言われてしまいました(笑)。まあ、彼の言う「実務」そのものが、担当者が行う業務なのだと思います。実務を行う中で、経営者感覚を身につけるのは非常に難しいということかもしれません。

 

偉そうなことを書きましたが、私自身も一担当者でしかありません。講演で語られていた①全体感を持つこと、②スキルを磨くこと、③自分の内発的動機の理解することを業務で心がけたいと思います。

 

「好き嫌い」と経営

「好き嫌い」と経営

 

<追記(2018/6/16)>

調べてみると、同じ内容の講演が幾つかされているようです。理解を深めるためにも、是非読んでみてください。